CATEGORY | nadeshico
2020.10.22
writer | シガだね編集部
滋賀の魅力的な“たね”を発見し、
大きく育てるプロジェクト「シガだね」。
記念すべき第一弾のたねは、
日本酒「喜楽長」の酒粕です!
現在、nadeshicoでは酒粕チーズケーキの
試作がいよいよ大詰め。
数週間後に迫った試食会を前に、シガだね編集部が
喜多酒造の次期蔵元、喜多麻優子さんを直撃!
女性蔵元としての思いから好きなおつまみまで、
気になるアレコレをたくさん聞いてきました!
こちらの建物は、昔からお店だったんですか?
喜多
この母屋は100年以上前の建物です。
この辺りは八風街道沿いで、かつては宿場町でした
昔は宿屋をやられていた建物なども残っていますよ。
お酒の味は水によって変わると聞きますが、
この辺りも湧き水が出るんでしょうか?
喜多
はい、この辺りは本当に水が良くて。
鈴鹿山系から流れ出る愛知川の伏流水を
敷地内にある井戸から汲み上げています。
創業当時からこの湧き水を使っていて、枯れたことはありません。
喜多
お酒をつくるには本当に大量の水がいりますが、
その必要な水を全てこの湧き水でまかなっています。
水は大量に輸送することができないので、いわゆる授かりもの。
山に近い分、とても良い水がたくさん手に入るのは本当にありがたいです。
硬度はどれくらいになるのでしょう?
喜多
中軟水ぐらい。
うちの水を飲まれた方は、硬度の割にはちょっと甘いような、
まろやかな水と言われる方が多いです。
それがうちの水の特長で、
少しぼってりとした、甘みのある水だと思います。
やっぱり土地によって湧き水の質はかなり違うんですか?
喜多
そうですね。
硬度が高いとしっかり発酵するので辛めのお酒になりますし、
軟水だとやわらかいお酒になります。
またそれ以上に、水に含まれている成分によっても蔵の個性が出やすいので
酒づくりにとって水はとても重要です。
喜多
うちは水ありきで、まったりとしたまろやかな水のイメージが、
そのままお酒に反映されるようにと考えてつくっています。
ぽちゃっとしたイメージ。
サラサラとか、キリッとじゃなく?
喜多
うちは、ふくよかなお酒をメインでつくりたいと思っていますので、
スラっとキレイなというよりは、もう少し味がある感じ。
この辺りは本当に良い水がとれるので、水に逆らわない酒づくりや
味わい設計を大切にしています。
こちらが普段、酒づくりをされている蔵ですか?
喜多
はい。
ここがうちの仕込み蔵、お酒が発酵する場所です。
建物としては、こちらも120年ほど経っています。
このタンクの中で麹が米のデンプンを糖に変えて、
その糖を酵母がアルコールに変えることで日本酒ができます。
タンクごとに味が違ったりするんですか?
喜多
そうですね、違います。
例えば仕込みの時点で、これは夏の酒にしよう、
こっちは秋の酒にしよう、と設計を変えるものもありますし、
同じ商品を2本つくろうと思っても、完全に一緒のものはできません。
繊細なんですね!
喜多
その時その時の、つくる人間の揺らぎであったり、
気温だったりが少しずつ影響するので、
それを後半で調整して、イメージ通りのお酒をつくっていきます。
酒づくりって「こんなのができちゃった」というより、
ゴールを目指してしっかり手をかけていくものなんです。
ここは、すごく涼しいですね!
喜多
壁が呼吸をするので夏でも涼しいんですよ。
ここが麹室です。
お米のデンプンを糖に変える働きをしているのが麹で、
その麹をつくるところです。
喜多
麹ってざっくりいうとカビの一種なんです。
どんな米にどのぐらいの量のカビを生やすかを決めて、
それを実行するのが私達の仕事なので、水分と温度管理はとても重要です。
喜多
うちは酒の味わいの中でも特に麹を大切にしているので、
部屋を増設したり、移動式の室を作ったりして
より細かな調整をしながら作業できるように工夫しています。
おかげで麹自体もすごく良くなってるんですよ。
つくり込むほどに、味が伸びるけどくどくない、甘いけど甘くない、
といった相反する要素が麹だとできやすいんですよね。
麹にはやっぱりこだわりたいと思っています。
麻優子さんは、酒づくりに関わるまでは
どんなことをされていたんですか?
喜多
実家に戻って酒づくりを始めるまでは、
食品メーカーで2年半ほど営業の仕事をしていました。
私はもともとこの家を継ぎたいと思っていたので
社会勉強も兼ねて就職をして、
こちらに戻ってきたのは2015年の秋です。
ご実家を継ごうと思ったきっかけはあったんですか?
喜多
家と蔵が近かったこともあり、中学生ぐらいの頃から、
この蔵を何とか残していけないかなと考えるようになりました。
そんなに早くから!
喜多
はい。お酒も飲めないうちから(笑)
両親にも継ぎたいと伝えていました。
だから私の場合、最初からお酒がものすごく好きでというよりは、
この場所を何とかして残したいという気持ちが強かったように思います。
蔵の、どんなところに惹かれたんでしょう?
喜多
さっき入っていただきましたが、蔵の中ってすごく静かでしょう?
ピカピカのきれいな建物ではないですが、何かが宿るところというか。
そういう場所を残していくのは、必要なことだと思いました。
小さい頃からお父さんが酒づくりをされるのを近くで見て、
どう感じておられましたか?
喜多
楽しそうだなと思っていました。
そうなんですか!ちょっと意外です。
喜多
うちに長くいてくれる杜氏さんと一緒に酒を飲みながら、
あぁでもないこうでもないと、
ずっと話しながらやっていた印象があったので、
単純にものづくりって楽しいんだろうな、と感じていました。
もちろん、お酒を飲むのも楽しそうでしたし(笑)
おもしろそう、楽しそうというイメージがずっとありました。
実際にやってみてどうですか?
喜多
いろんなファクターがあって、
答えがはっきりしないところがおもしろいですね。
単純じゃないところが、日本酒の奥行きになっているんだなと思います。
最初は経営や販売の方を手伝っていこうと思っていたのですが、
勉強の一環として杜氏さんの下で酒づくりを始めると、
すごく興味がわいて。
そこから毎年蔵に入るようになりました。
いい酒ができたな、と思ってもまた来年がある。
終わりのない仕事であり、それがまたおもしろくもありますね。
やっぱりお酒は好きですか?
喜多
好きです(笑)
特に好きなおつまみはありますか?
喜多
滋賀県生まれ滋賀県育ちなので、鮒ずしなどの
味の濃いものに濃いお酒を合わせるのが好きです。
お刺身も好きですが、そういう特別なものよりも飴煮とか佃煮とか、
普段から食べている甘味や旨味の強いものが好きです。
女性で酒づくりをされている方って少ないと思うのですが、
抵抗はありませんでしたか?
喜多
やる前は男女どちらでも同じだと思っていましたが、
実際この世界に入ってみると、女性は圧倒的に少なかったです。
私より二世代ほど上だと「女性は蔵に入るな」っていう時代だったので
うちの祖母も社長をしていましたが、女性は蔵に入れないもの、
それが当たり前、と考えていたようです。
そんな中でも、麻優子さんはご自身が継ぎたいと。
喜多
私が物心ついた頃は、そういう常識も変わりつつありました。
でもやっぱり、女性がやるのは覚悟がいるよ、とか
旦那さんをとって一緒にやったら?とかはよく言われました。
でもそれは、自分が残したいと思ったし、
自分がやりたいと思っているのに何か違うな、と。
だからこうして、自分の手でやっていきたいと思っています。
ご自身が後を継いで、変えていきたいと思うことはありますか?
喜多
変えようと思ったけど、変える必要がなかった、
というのが正直なところです。
うちはありがたいことに、滋賀県では知っていただいている方も多く
「喜多さんのとこのお酒」と親しんでいただいています。
私が帰ってきた時、若い女の子の力で新しい風を吹かせてほしい、
何かにチャレンジしてほしい、という声もありましたが、
それって喜楽長なのかな?って。
いくつかトライはしましたが、しっくり来なかったんですよね。
どんなチャレンジをされたんですか?
喜多
例えば、華やかなものを求められて、
香りが強くて甘いお酒をつくってみたこともありますが、
そもそもうちの水に合わなかったのか、つくりに合わなかったのか。
結局、商品としては出しませんでした。
その分、今はできることとできないことがあると思っていますし、
そもそもうちらしさを守るために帰ってきたので、
ベースの味わいをブラッシュアップしていくことを一番に考えています。
今、nadeshicoと一緒に開発中の
酒粕チーズケーキについても聞かせてください。
喜多
今回、新しいことに取り組むにあたって、
nadeshicoさんから“歴史”とか“今まで”という
キーワードをいただいたのは意外でした。
新しいお店をどんどん出している勢いのある飲食店なのに、
新しいものだけにこだわらない姿勢がむしろ斬新で。
だからうちの蔵とも波長が合ったのかもしれませんね。
商品については、どんな思いがありますか?
喜多
今回の企画って、単純にうちの酒粕を使っていただくという
嬉しさもありますが、滋賀県にあるおいしいものを
外に伝えるというコンセプトに共感した部分もありました。
お酒のままだとお酒好きの人にしか伝わりませんが、
普段お酒を飲まない方にも楽しんでもらえる
もっと身近なツールがないかなと思っても
うちにはそれを実現する能力がなくて。
喜多
なのでチーズケーキのような身近なものを提案してもらって、
新鮮な入り口を開いていただいたなと思っています。
完成が楽しみですね!
私達もすごく楽しみです!本日はありがとうございました。
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